ベビーパウダー使用の美容部員に”アスベスト労災”認定
アスベスト被害というと、建設現場や解体工事を思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし2025年12月、その「常識」を覆す労災認定が下された。仙台労働基準監督署が、化粧品販売員(美容部員)として働いていた女性の中皮腫による死亡を、業務上のアスベストばく露が原因として認定したのだ。化粧品を介したアスベストばく露が労災認定されたのは、これが全国初となる。
何が起きたのか
女性は1974年から1977年にかけて、資生堂(現・資生堂ジャパン株式会社)仙台駐在所で化粧品販売員として勤務していた。業務では、顧客への接客やメイクの実施にあたり、化粧品やベビーパウダーを日常的に使用していたという。2024年1月から体調不良を自覚し、同年4月に悪性胸膜中皮腫と診断され、療養中に労災を申請したが、同年10月、68歳で亡くなった。仙台労働基準監督署は調査の結果、化粧品やベビーパウダーに使われていたタルク(滑石)に不純物としてアスベストが混入していた可能性を排除できないとして、美容部員時代のばく露を業務上疾病と認め、2025年12月に労災認定した。
なぜ「化粧品」からアスベストが出るのか
ベビーパウダーや一部の化粧品には、タルク(滑石)という鉱物が使われている。タルクはアスベストと同じ鉱山から産出されることがあり、精製が不十分な場合に不純物としてアスベストが混入するリスクが指摘されてきた。実際、過去にも医療用ゴム手袋の再利用や時計の宝石加工の「打ち粉」としてタルクを使用していたことで中皮腫を発症し、労災が認定された例がある。しかし、化粧品を経由したばく露が認定されたのは今回が初めてであり、建材や工業製品だけでなく、日用品にもアスベストのリスクが潜んでいた可能性を示す事例となった。
遺族が求めていること
遺族と支援団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」は、女性が当時勤めていた資生堂と、国(厚生労働相・環境相・内閣府特命大臣)、業界団体である日本化粧品工業会に対し、要望書を提出した。要望の内容は、最新の分析技術を用いたタルク含有製品へのアスベスト混入の有無に関する調査と結果の公表、元化粧品販売員や消費者への周知とリスク評価、健康管理体制の整備などである。
過度に不安がる必要はないが、知っておくべきこと
この報道を受けて、「子どもの頃にベビーパウダーを使っていた」という消費者から不安の声が上がっている。専門医によれば、アスベスト疾患の初期症状は空咳や胸の痛みだが、自覚症状がない段階から過剰に心配する必要はないという。中皮腫は発症までに20〜50年ほどの潜伏期間があるとされ、過去のばく露が今すぐ症状として表れるものではない。ただし、長期間にわたって咳や胸の痛みが続く場合は、念のため医療機関に相談することが勧められる。
今回の事例は、アスベストが建材や工業製品に限らず、私たちの生活に身近な製品にも関わりうる問題であることを改めて示した。当サイトが伝えてきた「工事現場のアスベスト」だけでなく、こうした広い視点も持っておく価値があるだろう。
