なぜ現場の事前調査は「不十分」になりやすいのか

アスベストの事前調査は、法律で義務付けられているにもかかわらず、実際には不十分な形で終わっているケースが少なくありません。2022年度に大阪市が実施した立入検査では、対象となった現場の約3割弱で不適正な点が見つかったと報告されています。数字だけを見ると「そこまで多くないのでは」と感じるかもしれませんが、これは氷山の一角に過ぎません。行政が実際に立入検査を行える現場は限られており、検査が入らなかった現場でどれだけの不備があるかは、そもそも把握のしようがないのです。

「目視だけ」で終わってしまう構造的な理由

事前調査は本来、書面調査・目視調査・分析調査の3段階で行うべきものです。しかし実務の現場では、時間やコストの制約から、目視調査だけで済ませてしまうケースが後を絶ちません。分析調査には1検体あたり2万円〜5万円ほどの費用がかかり、調べる建材が多いほど総額は膨らみます。工期に追われる現場ほど、「見た目で判断できるものは分析を省略しよう」という判断が働きやすくなります。

加えて、天井裏や床下など目視だけでは確認しづらい箇所は、そもそも「見落とされる」リスクを構造的に抱えています。実際に「事前調査でアスベストなしと報告されていたのに、立入検査で使用が発覚した」という事例が複数報告されており、調査の見落としは決して珍しいことではありません。

有資格者制度だけでは解決しない問題

2023年10月から、事前調査は有資格者でなければ実施できなくなりました。この制度によって、無資格者による誤った判断は一定程度減ると期待されています。しかし、有資格者であっても、「調査にどこまで時間とコストをかけるか」という判断は、最終的に元請業者や発注者の意向に左右される部分が残ります。資格制度は「調査する人の質」を担保するものであり、「調査にどれだけ手間をかけるか」までは強制できないのです。

発注者・購入者にできること

調査の質を左右する要因が現場側の事情にある以上、発注者や不動産購入者の側が「調査報告書の中身を確認する」意識を持つことが、結果的に調査の質を底上げすることにつながります。書面調査だけで終わっていないか、目視の範囲は建物全体をカバーしているか、分析調査が必要な部分を省略していないか——こうした点を報告書受け取り時にチェックするだけでも、不十分な調査を見逃すリスクは大きく下がります。

「専門家に任せているから安心」という考え方自体は間違っていませんが、任せた調査の中身を一切確認しないこともまた、リスクを見過ごす一因になり得ます。