行政の取り組みと限界
この20年で、アスベストをめぐる行政の取り組みは着実に前進してきた。事前調査の義務化、電子報告制度、有資格者制度、そして年2回の全国一斉パトロール——制度としての骨格はかなり整ってきたと言える。しかし、制度が整うことと、それが現場で確実に機能することは、必ずしもイコールではない。
前進:パトロールと報告制度の強化
国土交通省・環境省は例年6〜7月と10〜11月頃、全国一斉のパトロール(石綿行政パトロール)を実施している。近年は労働基準監督署も加わった合同パトロールを行う自治体が増え、埼玉県・兵庫県・福井県・長野県・静岡県・広島県・福岡県など、多くの都道府県で実施されている。2022年4月の報告義務化以降は、報告内容そのものをもとに行政が事業者へ直接指導を行うケースも出てきており、「報告すれば終わり」ではなく「報告内容が精査される」段階に入ってきている。
限界①:立入検査でも3割弱が不適正という現実
それでも、行政の目が行き届く範囲には限界がある。2022年度、大阪市が実施した立入検査では、対象となった現場の3割弱で不適正な点が見つかった。これは行政が実際に足を運んで検査できた現場の結果に過ぎない。全国で行われている解体・改修工事のうち、行政が直接確認できる件数はごく一部であり、パトロールの網から漏れた現場でどれだけの不備があるかは、そもそも把握のしようがない。
限界②:資格制度はあっても「質」までは担保できない
2023年10月から事前調査は有資格者でなければ実施できなくなったが、業界団体からは「資格取得に実地研修がなく、更新も不要であるため、経験や知識が不足したまま現場に出てしまう作業員がいる」との指摘が出ている。資格制度は「誰が調査できるか」を制限する仕組みであって、「その調査がどれだけ丁寧に行われるか」までを強制するものではない。実際、有資格者による調査であっても見落としが発覚した事例は報告されている。
限界③:罰則の軽さと、法律をまたいだ抜け穴
作業基準違反の罰則は「3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」にとどまり、企業規模によっては経営への抑止効果が乏しいとの見方もある。また、解体工事の現場には厳しい事前調査義務が課される一方、不動産の売買という「建物を人手に渡す」場面では、宅建業法上、調査そのものは義務化されていない。同じアスベストを扱う法律群の間に、こうした一貫性の欠如が残っている。
それでも、行政の取り組みが無意味なわけではない
限界があるからといって、行政の取り組みが無意味というわけではない。パトロールや報告義務化によって、少なくとも「見つかるかもしれない」という緊張感が現場に生まれたことは事実だ。2021年5月の建設アスベスト訴訟で国が敗訴し、国の責任のあり方そのものが問われたことも、その後の規制強化を後押しした一因になっている。
ただし、制度の網の目からこぼれ落ちる現場が一定数存在する以上、「行政がやってくれているから大丈夫」という受け身の姿勢だけでは、リスクを十分にカバーできない。工事現場の掲示を自分の目で確認する、調査報告書の中身を疑ってみる——そうした住民・発注者・購入者一人ひとりの目が、行政の限界を補う最後のセーフティネットになる。
