2030年問題:解体ラッシュが来る

「アスベストは過去の問題」と思っている人ほど、この数字に驚くはずだ。国土交通省によると、アスベスト含有建材を使った大規模建造物は、使用が全面禁止となった2006年までに全国で約280万棟建てられたとされる。これらの建物が今まさに耐用年数を迎え、解体工事は2028〜2030年ごろにピークを迎える見通しだ。石綿建材を含む解体件数は、2017年の約6万棟から、ピーク時には約10万棟にまで膨れ上がると見込まれている。

なぜ今、ピークが来るのか

日本の建設ブームは、1960年代の高度経済成長期と1980年代のバブル期に大きな山を迎えた。この時期に建てられた建物は、耐用年数から逆算すると2020年代から2040年代にかけて解体時期を迎える。なかでもアスベストの使用量が最も多かった1960〜80年代の建物が集中的に解体されるこの時期は、業界内で「解体ピーク」と呼ばれている。健康被害のピークも同じく2030年ごろと予測されており、「建物の解体」と「健康被害」という2つの波が同時に押し寄せる計算になる。

すでに事故は増え始めている

この解体ラッシュを裏付けるように、2025年にはアスベスト除去作業中の事故が相次いで報じられた。3月には東京都千代田区のビル解体現場で、密閉空間での発電機使用が原因とみられる一酸化炭素中毒で作業員16人が病院に搬送された。5月には堺市の工事現場で3人が倒れ、うち1人は一時意識不明になっている。4月に発生した大阪市のビル解体現場の事故では、有機溶剤を使用していたとみられる密閉空間で女性作業員が死亡し、業務上過失致死容疑での捜査も視野に入れられている。

現場を支える資格制度の弱さ

解体工事の急増を前に、現場を担う人材の質にも懸念の声が上がっている。国は2006年に国家資格「石綿作業主任者」を設け、現場での選任を義務付けたが、業界団体の関係者は「資格取得に実地研修がないことや、更新が不要であることが、経験不足のまま現場に出てしまう作業員を生む要因になっている」と指摘する。海外では実地研修や資格の定期更新を必須とする国もあり、日本の制度の厳格化を求める声が強まっている。有資格者の数自体も、急増する需要に対してまだ十分とは言えない状況が続いている。

「解体ラッシュ」は他人事ではない

2030年前後の解体ピークは、業界内の話にとどまらない。自分の自宅の近隣で、あるいは自分自身が所有する古い建物で、今後10〜20年のうちに解体工事が行われる可能性は決して低くない。事前調査の義務化や有資格者制度は年々強化されているが、それを現場が確実に守れるかどうかは制度だけでは担保できない。工事現場の掲示や事前調査の内容を、当事者自身が確認する意識を持つことが、これから訪れる解体ラッシュの時代を安全に乗り切るための備えになる。